ヘッダーイメージ 本文へジャンプ
古書価について
古書価は、その本の持つ価値が客観的に評価されたものということができます。

その価値の要素としては、以下のように複数のものが上げられます。

この中で、1-4についてはその本自体の持つ価値で、5-7は、1冊毎の個体で評価されます。

1.希少性
2.作品の文学上の価値
3.装幀の価値

4.市場での人気
5.本の状態
6.署名等の付加価値

7.書き込み、蔵書印などの有無


1.希少性
発行数だけでなく実際に市場で取引される量が少ない場合に希少性が高いということができます。

発行数は絶対的なものですから、これが少ない場合希少性は高いということになります。例えば、「十九春詩集」(昭和821日椎の木社発行)は50部、「兄いもうと」(昭和1461日山本書店発行)の特製限定20部本等はもともと発行数が少なく、市場にはほとんどでてきません。そのため、出てきた場合にも高価格は必須となります。

一方で、「神々のへど」(昭和10121日山本書店発行)の限定50部本は、発行数は少ないものの市場には常に数冊出ています。
価格は限定本ということで高価格ですが、この場合には希少性によるものとは違う価値感によって価格が決まっているように思います。
発行部数が多いものの、希少性が高いものとしては児童書があります。「動物詩集」(昭和1895日日本絵雑誌社発行)は、その奥附けの記載から初版60,000部といわれていますが、市場にはなかなかでてきません。その他に「山の動物」や「オランダとけいとが」、「四つのたから」「5つの城」等もやはり市場での流通量は少なく、結果的に高価格で取引されています。
2.作品の文学上の価値
やはり処女出版の「愛の詩集」や第2詩集で著名な「小景異情」詩が掲載されている「抒情小曲集」はやはり作品としての文学的価値も高く、結果的に市場での人気も高いことからやはり高価格となっています。
3.装幀の価値
装幀によっても大きく評価は変ります。例えば、定本愛の詩集(昭和41615日豊島書房発行)の限定72部本は、挿絵は畦地梅太郎氏の手摺版画で、総皮装の豪華本です。通常版に比較して市場価格は約810倍程度となっています。この限定72部本は、著者の署名がある訳ではなく、そういう意味では装幀の価値の違いによって価格が異なっているということになります。
4.市場での人気
やはり市場での人気も古書価に大きく影響します。「ふるさとは遠きにありて思ふもの」で有名な小景異情が収められている「抒情小曲集」(大正7910日感情詩社発行)は、600部自費出版ですが、処女詩集の「愛の詩集」(大正711日感情詩社発行)の550部自費出版に比較しても高額で取引されているようです。このあたりは、希少価値というよりは市場での人気ということが言えます。
5.本の状態

基本的にその本が市場で販売された状態を「完本」と呼び、最も高い価格が付きます。

例えば、「函」、「カバー」、「帯」といったものが最初から付いていた場合には、本にそれら全てが揃っている場合に「完本」として扱われます。また、全集の場合には「月報」があるかどうかも「帯」等と同様に「完本」の重要な構成物となります。

それに対し、「本」のみの状態を「裸本」といい最も安い評価になります。

「函」この中で、最も価値の変動が大きいのが「函」で、「本」そのものより価格が高い場合があります。
例えば、最初の小説集である「性に眼覚めるころ」(大正915日新潮社より発行)は恩地孝四郎の装幀で、黄色の印象的な函が付いています。市場価格としては函附きで60,00080,000円程度ですが、函欠けであれば15,000円程度で入手することができます。
「カバー」その次が「カバー」で、特に希少性の高い場合の「カバー」の有無は価格に大きく影響します。その代表的なものが「高麗の花」(大正1395日新潮社から発行)や「庭と木」(昭和591日武蔵野書院から発行)等で、「カバー」の有無で数倍の価格が付くことも珍しくありません。
「帯」については、比較的新しいものに多く、最も古いもので「作家の手記」(昭和13919日に河出書房から発行)あたりで、帯附きは、帯欠に対して23倍の価格となっています。

30年代の作品では、函装、カバー装にかかわらず「帯」附きが多くなっていますが、「日本の古本」を見ても、「帯」の有無での価格差は少ないようです。

 

もちろん、紙という非常に経年の影響を受けやすく劣化しやすい素材でできていますので、「完本」の状態のものでも「新本」と同じ状態のものは基本的に存在しません。そのため、通常の経年変化を考慮して評価されます。通常想定される経年変化と比較して、状態が良い場合には「美本」や「極美本」というように評価されます。逆にそれなりから悪い場合には、「並本」や「劣本」というように表現され、低い評価となります。

「パラフィンカバー」、「セロハンカバー」が附いたものもあります。30年代の「函」附きでは、その多くで「パラフィンカバー」、「セロハンカバー」が附けられていますが、それらの有無ではほとんど古書価に影響がないようです。どちらかというと「美本」「極美本」といった本の美醜ということで表現されるようです。
ただし、「聖処女」(昭和1125日新潮社から発行)の本にかけられた「パラフィンカバー」には題名が印刷されており、その「パラフィンカバー」が附いたものは非常に貴重で高価格となっています。

6.署名等の付加価値

著者の署名については、付加価値として古書価への+の評価がされます。この中でも、ペン書きより墨署名が高く評価され、また署名の内容によっても変化します。

一般的な署名入りの場合には数倍程度の価値が付きます。

比較的評価が低いのは献呈署名で、無名の宛先への献呈署名は、単なる署名より低く評価されます。逆に宛先が著名人である場合には高く評価される場合があります。

また、文学者への献呈署名についてはその価値よりも、その関係を示す文学的な意味を証明するという価値を持っています。

例えば、「硝子の女」(昭和3455日新潮社発行)の森茉莉氏宛ての献呈署名入り本は、その代表例でしょうか。その存在が「黄金の針」(昭和3645日中央公論社発行)

に書かれており、古書価ではない、特別な価値を持っています。
7.書き込み、蔵書印等の有無

マイナスの評価としては、本への書き込みや、蔵書印等があります。蔵書印は、中扉や扉等比較的目立つところに押されているケースが多く、比較的高価な書籍の場合には、古書価への影響が少なからずあります。
また、旧持ち主による書き込みや落書き等も大きくマイナス評価されます。鉛筆によるものもも、経年変化によりダメージとなる場合も多いようです。
但し、例外的に著名人の書き込みについては、別の価値を持つ場合もあります。

フッターイメージ