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「ピーター・パン」 詩 室生犀星、絵 鈴木信太郎

雑誌「こどもクラブ 第2号」に掲載された犀星の詩です。
この詩について犀星は、<作者のことば>として
「ピーター・パンはむずかしい。 はじめ細かい挿話のようなものも、書き入れたいと思ったが、枚数の関係で入れることができなかった。
 だいたいが詩のような形を取ってくれという編集部の話だったので、私は行を乱した詩の表現形式をとったが、編集部では、なるべく子供が口ずさんで、すらすらとした覚えやすいように、書いてくれとの再度の申し入れで、結局、べつの七五調の形式を二、三補充することで妥協した。(略)」との愚痴ともとれる話を書いています。

1
ピーター・パンは としをとらない
いつもこどもで ほおがあかい
はねははえていないが そらをとぶ
どこでもとんで ふうわりと
木のうえにとまると とりのよう
水のうえでは ふねのよう
目がうつくしく りこうです
ちからがあってまけません

そらはあおぞら ひろびろと
あそびまわった ピーターは
家にはめったにかえりません
たまにはかえってゆくけれど

2
ピーターはある日 おかあさまにあいたくなり
おかあさまのねどこに はいってゆき
よくねむって
また、ゆめの島の
もりにもどった
つぎのばんにも またあいたくなり
おうちのまどから はいろうと
てでゆすぶってみれば とがしまり
もうおへやに はいれない
よくみると べつのあかんぼうをだいて
おかあさまはすやすやと ねています

3
おかあさまは そらをとんであそぶ
ピーターをあきらめてしまったのです
ピーターは ゆめの島のもりにかえり
いつまでもおとなにならない子になり
じゆうじざいにそらを
かけまわっていました

4
ウエンディーという女の子がいました
ウエンディーのこころのなかに
いつもきこえてくるピーターというなまえ
おかあさまは ある日
ピーターというのは
いったいだれでしょう とたずねた
ピーターはおかあさまの
そのまたおかあさまのころの 子どもでしょう
おわすれになったの と ウエンディーはいった
そういう子どももいたわね

それならもうとしよりじゃないの
いえ ピーターはとしをとりません
いつまでも 子どもでまいばんふえをふいて
わたしのベッドのすそにきています
わたしはピーターがだいすきよ

5
ピーターがきた日のあしたには
あおい木のはが まどぎわに
ちらばっていた
この国にはみられないきんのこをふいた
うつくしい木のは ばかりです
ゆめの島のこうえんのずっともりのおくにある
木のはがピーターのからだに
ついていたのにちがいない
うつくしはです

6
おかあさまはあるばん うとうとしていると

ひとりのひかっているような子どもが、
まどからはいって まだひかったままで
まどからでてゆくすがたをみて
あれがピーター・パンだと しりました

7
ピーターは ウエンディーと ともだちになった
ウエンディーは ともだちになるあくしゅをした
ゆめの国の はなしをし
ゆめの国には とりや花や にんぎょがあそび
ほしはふねのように たくさんうかんでいると
ピーターは おしえてくれました

8
ピーターは ウエンディーと弟のジョンと
ミカエルをつれ
さあいこうといって
ウエンディーの手をにぎり


ほしがきらきらしているそらへ とびだしました
海のうえをとんでいったが あおい海 むらさきの海金の海 ぎんの海もあった
あおい海にはあおいとり むらさきの海には
むらさきのとりが いました

9
ピーターとウエンディーは ゆめの島に つきました
ここには にんぎょのむれがすみ けものがすみ
土人がすみ おそろしいかいぞくがすみ
まいごたちがすみ わにがすみ
それらはぎょうれつをして まいにち あるいていました
     かいぞくのかしらは フックといって
     あおぐろいかお まっかなかみ
     おこると かっと目があかくなる
     とてもおそろしい男です

フックはいつか わにのロのなかに
めざましどけいを なげこんだので
わにがちかづくと とけいがちくたくなって
フックは わにがいちばんこわかった

フックのうでは
ピーターに一本だけきられ
かたほうしか ありません

10
ウエンディーに 小さい家をつくりました
あおい木のしるをぬり あかい花をやねにふいて
けがをしたウェンディーをいれた
そしてピーターは たのみました
ウェンディーよ ぽくらのおかあさまになってくださJ
ぽくらはあなたの子どもに なりたいのです
いいわ やさしいおかあさまになってあげるわ

     ゆめの島にはまいごたちが
     六にんすんでいてウエンディーは
     その子どもらのおかあさま
     そしてピーターはたいしょうです

ピーターは地めんの下にも 家をつくった
ゆめの木が一本あって
テーブルにもなり まさにもなり こしかけになり
あさ きっておくと ゆうがたには ゆかになるのです
ウエンディーは 八にんの予どもに 学校ごっこをします

(おかあさまの目のいろをこたえよ)
(おかあさまおとうさまとはどちらがすきか)

12
ピーターは学校ごっこには はいらない
そしてライオンと けんかをし
わしとかけっこなどを しています
ある日 にんぎょのたくさんいるところに
かいぞくが 土人の女の子をつれてきて
いわのうえに おいていった
ピーターはかいぞくフックと たたかった
フックはむらさきいろのかおをして
とびかかってきたが
子どものピーターに まけてしまったのです
海のうえに にんぎょのうたがおこり
月が やさしいウエンディーのように
のぼっていく

13
あるばん ウエンディーは
子どもたちにおはなしをしていた
その むかしむかしのはなしを しているうち

みなは おかあさまに あいたくなり
ゆめの島からうちに かえりたいという
しかしピーターは いつかおかあさまのおへやに
べつのあかんぼうが いたことをおもいだし
かえりたいとは いいません
そこでピーターだけをのこし
いよいよ 島からたつことになりました

14
そのとき かいぞくフックがせめてきました
ウエンディーも 子どもたちも
みんなつかまり ふねにつれられていった

ビーターはぐうぐうねていたが
きゅうに目がさめて
かたなのかちあうおとや
ひとのあしおとが たくさんしてくるので
おきあがって かたなをもってそとにでた

15
かいぞくせんは 三本マストの
「ジョリー・ロージャー号」
かいぞくのかしらのフックが こぶんとおさけをのみ
ウエンディーと八にんの子どもを
いつでもころすようすであった      。
そのときフックは しんばいそうなかおをし
たすけにきたピーターが わにのおなかの
とけいのおとをくちまねしながら
ちくたく ちくたくといってやってきました
フックは わにがきたとおもって    ・
うろたえて こわがっていました

16
かいぞくたちはみんなころされ
かしらのフックだけになった

ピーター・バンのかたなと
フックのかたなとが ひぱなをちらしたが
ピーターはフックを さってしまった
そして ピーターがかったんだ
みんな手をたたいて
おどりあがって ばんざいをさけぴました
  
   まけたフックは海にとぴこんだ
   海にはわにがまちかまえ
   ぱっくりひといさ
   いきおいこんでのみこんだ

子どもたちは かいぞくせんにのって
おかあさまの家に かえっていきました
おうちにはまどがあいていて いつでも
はいれるように なっていました
ウエンディーも ジョンとミカエルも
ながいことで
おかあさまにあったので なきました

しかしピーター・バンは
しばらくすると
ゆめの島にもどりたいと いうのです
どんなにとめても きかない
ウエンディーも島にはいきたいが
おかあさまが かなしそうになさるので
だまっていました
そこでみんなで そうだんをして
まいねんの春にいちどずつ 花のさくじぶんに
ウエンディーがゆめの島に あそびにいくことに
そんな やくそくをしたので
ピーターがまどから たって
そらのとおいところに とんでいきました
さようならと ウエンディーがよぶと
そらからピーターのこえが してきました
さようなら

らいねんの春には きっとおいで

19
あくるとしの春 むかえにきたピーターと
ウエンディーはたのしくゆめの島でくらした
そのあくるとしの春も まいにちまっていたが
ピーターはとうとうこないで 春はすぎました
三ねんめの春に ピーターはきたけれど
そのあくるとしから
ずっとこなくなりました

「ピーター・パンは どうしたんでしょうね」
子どもたちは よると こんなはなしをした
そのうちウエンディーは だんだん大きく
うちくしいおとなになりました
ピーターのことは
いつのまにかわすれてしまいました
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