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詩集「故郷図絵集」の謎

詩集「故郷図絵集」の奥附

詩集「故郷図絵集」の奥附には不思議なことがあります。普通本、特製50部限定本、そして復刻版で、それぞれ違いがあるのです。
さらに今回、普通本の異種を発見しました。この奥附にはさらに不思議なことを見つけてしまいました。既に発行から約90年、この事情を知っている人もいなくなっており、その理由を知ることはほぼ不可能かもしれません。不思議いっぱいの詩集「故郷図絵集」の奥附です。

普通本
左は普通本(通常版)の奥附です。
下部に「普通本 六拾銭」との記載があります。
特徴的なのは、その下の記載で
「印刷者 大黒貞」
「発行所 椎の木」
となっています。それに対し、特製50部限定本や復刻版では、それぞれ
「印刷者 大黒貞
「発行所 椎の木
との表記になっています。
それが、この1冊の印刷で発生したものか、あるいは版下の問題かは、今時点では判明していません。さらに別の「普通本」での確認できた際には報告させていただきます。

復刻版(近代文芸復刻叢刊)
左は復刻版(近代文芸復刻叢刊)の奥附です。
普通本を底本としているため、普通本と同様に「普通本 六拾銭」との記載があります。
その下の記載は、普通本と異なり正しく
「印刷者 大黒貞
「発行所 椎の木
との表記になっています。普通本では、記載に誤りがあったということで修正したものと思われます。但し、敢えて復刻版で修正したといういことでは、オリジナルと区別できるようにするために修正したと考えるのが自然です
検印は、普通本と同じ印影を使っています。

特製本(特製50部限定本
左は特製本(特製50部限定本)の奥附です。
上部には、「特製本1-50」の記載があります。
また、下部には「普通本 六拾銭」との記載があります。
その下の記載は、普通本と異なり「金弐円」の記載と
「印刷者 大黒貞
「発行所 椎の木
との表記になっています。
普通本では、記載に誤りがあったということで修正したものと思われます。
検印は、普通本と異なる印影を使っています。

新発見です。
普通本のようですが、サイズも一回り小さく、なによりも奥附、検印、頁構成も異なっています。検印もシンプルなもので、奥附も整っていないことから試し刷りのような印象です。
「日本の古本屋」の在庫検索でこの「故郷図絵集」を見てみると、既に在庫切れとなっている1冊で、「初版 奥付検印「犀星」 序頁シミ カバー少傷ミ 復刻版かと疑うほどの状態であるが、様々なポイントから判断するにオリジナルの極美本である。」との記載があります。この記載が事実だとすると検印が「犀星」とのことから、同じ素性のものの可能性があります。

普通本(異種)
左は普通本の異種版の奥附です。
下部には、「普通本六拾銭」との記載があります。普通本と異なり、「普通本」と「六拾銭」との間に空白がなく詰められています。
また、その下の記載は「普通本」と異なり、
「印刷者 大黒貞
「発行所 椎の木
との表記になっています。
その他にも、検印の違い、本のサイズ、頁構成(普通本総頁数65頁に対して66頁)、本文かな使いなどにも違いがあり、「普通本」発刊の前の校正のための試し刷りではないかと思われます。
不思議なのは、ここでは印刷者、発行所ともに正しいと思われる記載だったものが、普通本でなぜ誤ってしまったかということです。


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