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「新らしい詩とその作り方」の謎

「新らしい詩とその作り方」は、室生犀星最初の評論集で、多くの版が出されており内容も時代と共に改編されています。このあたりは非常に面白い一冊です。但し全集等には収録されておらずオリジナル以外に読むことができないため、なかなか貴重なものです。

「新らしい詩とその作り方」増補版の謎
右の書影(上・中)は、犀星の最初の評論集「新らしい詩とその作り方」の改訂三版(函・本)です。京文社書店から出版されています。先日、珍しい函附きをネットで見つけて購入しました。
 奥附には、以下の発行記載がありますが、他の書誌や国立国会図書館や他の公立図書館の蔵書記録、古書展での販売履歴でも、増補版が存在した記録はなく、実際は三版から出版されているようです。
大正十三年五月四日 増補印刷
大正十三年五月十日 増補発行
昭和十三年六月一日 三版発行
 また、最下部には、小さく「大正七年四月十日初版発行」との記載があります。そのため、実際は以下のような出版の経緯のようです。
初版  大正7年4月10日発行 文武堂書店刊
改訂版 大正14年4月5日発行 文武堂書店刊
    (芳美閣版)
第三版 昭和13年6月1日発行 京文社書店刊


 参考までに、「室生犀星全集(新潮社刊)」の 「別巻二」に収録されています結城信一著の「書誌」には、「改訂新版 新らしい詩とその作り方 大正十四年四月五日・芳美閣」は記載されていますが、大正十三年五月十日の増補版については、その記載がありません。また、第一書房社から昭和13年11月5日発行された「室生犀星文学読本(秋冬の巻)」巻末の書誌にも同様に記載がありません。
 「室生犀星書目集成(室生朝子・星野晃一編)」では、大正十三年五月十日の増補版について「改訂新版」として記載があるもののその[補記]では、「昭和十三年六月一日発行の第三版(定価二円)にて、本改訂新版の初版内容を確認。」との記載があり、原本を確認できていないようです。
 また、その裏付けとなる可能性のある記述を意外なところから見つけました。
それは、「三版」に掲載されている「再刊小言」です。
そこには、「それからこの本を再び世におくりだすことは、私の現在の心持とはかなり縁遠いものであるが、
文武堂主人の熱心な懇請が否(いな)みがたく匇惶(そそくさ)の間に百枚あまり足らざる箇所を増補し、至らぬ箇所を改訂して剞劂(きけつ)に附した次第である。」とあります。
 右の書影下は、文武堂から出版された「改訂版」の表紙ですが、「文武堂主人の熱心な懇請(こんせい)」で別の出版社の京文社書店から出版したとは考えにくく、これがまさにそこに記載されている「再刊」であり「改訂」したものだと思われます。
 また、「改訂版」に掲載されている「再刊小言」には、「『新らしい詩とその作り方』初版は大正七年二月に発兌(はつだ)したものであって今から恰度六年前である。」との記載があり、そこから増補版が大正十三年に出版されていたのではとの話になったのではないかと推測されます。

 これらの事からも、大正十三年五月十日の増補版は、存在せず、大正十四年四月五日出版の文武堂書店刊(芳美閣版)を指しているものと思われます。



初版「新らしい詩とその作り方」で散見される誤り

以下は、初版「新らしい詩とその作り方」の目次です。オリジナルの目次には、掲載頁が記載されていないため、本来の目次の役割を果たしていないように思います。
また、本文内の章の表記も結構間違っています。やはり急いで出版したことから、校正も十分に行われなかったようです。

 章(目次での表記) 掲載頁  本文内の表記(誤りのあるもの)
1 詩は優しい春のやうな感情である   p.1
2 詩は愛である  p.5
3 一つの林檎  p.8
4 陰影、容積、深み、動くものについて  p.14
5 新鮮なるものに就いて、新らしい詩について  p.18
6 詩は自然の中に  p.22
7 自由な詩、自由な口語  p.33
8 唱歌をうたふ女童の心理について  p.36
9 真と美とは詩の根本思想だ(その一)  p.39
10 真と美とは詩の根本思想だ(その二)  p.49
11 男性的な詩と女性的な詩(その一)  p.53
12 男性的な詩と女性的な詩(その二)  p.60
13 詩と宗教について  p.61
14 近代科学と詩と  p.67
15 口語詩と文語詩との区別  p.81
16 リズムとは何ぞや  p.90 リズムとは何ぞや
17 戀(恋)および愛の詩  p.100
18 詩を思ふ心 詩と生命感に就いて  p.124
19 詩と生命感に就いて  p135
20 詩のやうな物語り  p.141
21 美しい詩とその評釋(釈)  p.153
22 詩を多く(讀み)書くこと  p.211
23 叙情詩について  p.213 32 叙情詩について
24 詩人と郷土との関係について  p.221
25 詩と音律との関係につ(就)いて  p.228 52 詩と音律との関係につ(就)いて

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