|
新らしい詩とその作り方 |
室生犀星最初の評論集
「第二愛の詩集」の巻末の広告には「著者はその詩作のかたはら折々に書きしるした詩についての感想を此書物に蒐めて、高い意味で公にした珍しい書物である。」と記載されています。
一方で、「憑かれたひと」に収録されている随筆「小説『幼年時代』」には、自分を卑下するかのように「多田不二に手伝ってもらい『新らしい詩とその作り方』という、ばかばかしく悲しい原稿を二百枚ほど書いて、文武堂から出版してたしか六十円ほど収入を得た。」と書いています。
また、多くの版が出されており内容も時代と共に改編されています。このあたりは非常に面白い一冊です。但し全集等には収録されておらずオリジナル以外に読むことができないため、なかなか貴重なものです。(今回、ようやく国書刊行会から復刊されました。)そのため、ほんど研究されていないようです。唯一、林 土岐男著の「犀星襍記」の「『新らしい詩とその作り方』の周辺」には、詳しく紹介されています。 |
|
「新らしい詩とその作り方」は、初版が、大正7年4月10日に発行された以降も多くの版が出版されています。 今回、非常に珍しい「新らしい詩とその作り方」の改訂新版を入手しました。(写影左端)
新らしい詩とその作り方(改訂新版) 文武堂書店刊 大正14年4月5日発行 四六判 函
国立国会図書館デジタルコレクション http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/986261
初版、三版はときどき市場にでてきますが、改訂新版はめったに市場にでてきません。写影の右端から、
初版函、初版本(大正7年4月10日発行 文武堂書店刊)、
第三版(昭和13年6月1日 京文社書店刊)、
第五版(昭和14年3月5日 京文社書店刊)、
そして改訂版(大正14年4月5日 文武堂書店刊)です。
|
初版の函付きはなかなか見つかりません。書影は貴重な函付きのものです。装幀は、恩地孝四郎の手によるものです。なぜか、入手した初版の3冊全ての本中央上部に水濡れ跡のようなものがあります。
4冊目を入手しました。函の状態が以前のものと比較しても良いため、その写真と入れ替えました。
|
|
|
|
|
|
|
|
新らしい詩とその作り方
(初版)函 *1
|
新らしい詩とその作り方
(初版)本
|
新らしい詩とその作り方
(初版)奥附
|
|
|
この本は、橋爪 健氏(1900年2月20日 - 1964年8月20日)の旧蔵書です。
この入手した本の後ろ扉の余白に詩人で、評論家の「橋爪 健」氏の詩が墨で書かれています。彼の著書に室生犀星に関してのものがあり、研究文献として所有していたものと思われます。
古書店から入手しましたが、橋爪 健氏のことを知らずに、ただの書き込みということでマイナス評価として販売していたようです。プロの詩人が、犀星の詩の入門書である「新らしい詩とその作り方」を読んでいたというのは面白い話です。ちなみに書き込まれていた詩はすばらしいものでした。
|
|
|
中には奥附に改正定価金1円20銭の訂正紙がされたものも存在します。当時は定価改定は珍しいことではなかったようです。その他にも改正定価金1円30銭の訂正紙がされたものも存在するようです。
|
|
|
|
|
|
|
|
新らしい詩とその作り方
(初版)本
|
新らしい詩とその作り方
(初版)中扉
|
新らしい詩とその作り方
(初版)奥附
改正定価1円20銭
|
|
「第二愛の詩集」の巻末に掲載された「新らしい詩とその作り方」の広告
この広告の中で、「著者はその詩作のかたはら折々に書きしるした詩についての感想を此書物に蒐めて、高い意味で公にした珍しい書物である。このなかにあるボンタン哀詩のごときは、これ以上の哀詩はないだらうと、著者はいろいろな読者から手紙をもらつたほどである。著者の愛や詩についてのある一端に触れ得ることは、この書物より外にはないであらう。」と紹介しています。
ここでは、「新しい」と送り仮名に「ら」がありません。これ以外にも、文武発行書目が掲載されており、そこには「新らしい詩とその作方」と「ら」はありますが、今度は「り」が抜けています。 |
初版と同様に文武堂書店からの出版です。非常に珍しいものです。
今回、ようやく入手しました。国立国会図書館デジタルコレクションでもその内容が公開されています。
内容的には、第三版、第五版と同様に29章から構成されています。
初版から、前附として「フィオルド・ドストエフスキイ」の言葉、「オギユスト・ロダン」の言葉が収録されていますが、この改訂版のみ「オギユスト・ロダン」の言葉が前になっています。
それ以外は、第三版、第五版と同じ版下を利用しているようで、文字を含め全て同じです。
ちなみに、初版、第三版、第五版、この改訂版は、発行人が「山添平作」と全て同じ発行人によって出版されています。このあたりの経緯にも林 土岐男氏が、「犀星襍記」の中の「『新らしい詩とその作り方』の周辺」で言及されています。 「室生犀星書目集成」室生朝子、星野晃一編では、函附とされていますが、一度も目にしたことがありません。これまで、入手した2冊とも函欠けのものです。
|
|
|
|
|
|
|
|
新らしい詩とその作り方
(改訂版)本 *1
|
新らしい詩とその作り方
(改訂版)中扉
|
新らしい詩とその作り方
(改訂版)奥附
|
改訂版として京文社書店から出版されました。
再刊小言が新たに追加され、初版では25章であったのに対して29章と内容も大幅に追加されています。
初版が背も含めて白い装幀であるのに対して改訂三版の背は藍色の装幀となっています。今回、函附きの状態の良いものを入手しました。
ちなみに、増補版はこれまで市場で一度も見たことがありません。国立国会図書館デジタルコレクションを含め、入手済みの2冊、過去のインターネット上の記載含め全て改訂第三版以降です。
大正十三年五月四日 増補印刷
大正十三年五月十日 増補発行
昭和十三年六月一日 三版発行
|
|
|
|
|
|
|
|
新らしい詩とその作り方
(第三版)函
|
新らしい詩とその作り方
(第三版)本
|
新らしい詩とその作り方
(第三版)奥附
|
第五版は軽装本としてカバー装で、京文社書店より昭和14年3月5日に発行されています。内容的には、第三版とほぼ同じです。
奥附には、第三版までの記載に以下のような追加がされています。
昭和十三年十月五日 四版発行
昭和十四年三月五日 五版発行
最近、この第五版が市場にでてくるようになりました。先日もヤフオクと送られてきた古書目録に出品されていました。
先日、第六版を入手しました。第五版と同じ装幀でした。(2021年10月2日)
昭和十四年八月五日 六版発行
|
|
|
|
|
|
|
|
新らしい詩とその作り方
(第五版)本
|
新らしい詩とその作り方
(第五版)裏表紙
|
新らしい詩とその作り方
(第五版)奥附
|
下の表は、初版と第三版(改訂新版)、そして後述の「文藝創作講座」に連載されているそれぞれの章の比較です。第三版では、初版の25章から29章と増補されています。
「*」が付いているものが新たに追加されたものです。赤い部分は変更部分です。
「文藝創作講座」では、その多くが既存の章をまとめたもので構成されていますが、「フランスの詩人について」や「プロレタリア詩に就いて(その一、二)」については新たに書き下ろしたもののようです。
|
初版
大正7年4月10日発行 |
増補版(第三版)
昭和13年6月1日発行
改訂新版
大正14年4月5日発行
|
文藝創作講座
昭和3年12月20日発行 |
|
序に代へて(萩原朔太郎著)、自序 |
序に代へて(萩原朔太郎著)、自序
再刊小言*増補版(第三版)のみ |
序 |
1 |
詩は優しい春のやうな感情である |
詩は優しい春のやうな感情である |
詩をおもふ心 |
2 |
詩は愛である |
詩は愛である |
詩の本質 |
3 |
一つの林檎 |
一つの林檎(内容追加) |
詩的精神 |
4 |
陰影、容積、深み、動くものについて |
陰影、容積、深み、線、動くものについて(線に関する内容追加) |
詩の内容と形式 |
5 |
新鮮なるものに就いて、新らしい詩について |
新鮮なるものに就いて
(タイトル変更) |
表現 |
6 |
詩は自然の中に |
詩は自然の中に
(例詩、および内容の変更) |
技巧について |
7 |
自由な詩、自由な口語 |
自由な詩、自由な口語 |
男性の詩 |
8 |
唱歌をうたふ女童の心理について |
唱歌をうたふ女童の心理について |
男性的な詩と女性的な詩 |
9 |
真と美とは詩の根本思想だ(その一) |
真と美とは詩の根本思想だ(その一) |
リズムとは何ぞや |
10 |
真と美とは詩の根本思想だ(その二) |
真と美とは詩の根本思想だ(その二) |
口語詩と文語詩 |
11 |
男性的な詩と女性的な詩(その一) |
男性的な詩と女性的な詩(その一) |
戀(恋)および愛の詩 |
12 |
男性的な詩と女性的な詩(その二) |
男性的な詩と女性的な詩(その二) |
美しい詩とその評釋(釈) |
13 |
詩と宗教について |
詩と宗教について |
フランスの詩人に就て |
14 |
近代科学と詩と |
口語詩と文語詩との区別 |
プロレタリア詩に就て(その一 |
15 |
口語詩と文語詩との区別 |
リズムとは何ぞや |
プロレタリア詩に就て(その二) |
16 |
リズムとは何ぞや |
詩を思ふ心 |
結語 |
17 |
戀(恋)および愛の詩 |
詩のやうな物語り |
|
18 |
詩を思ふ心 |
詩と生命感に就いて |
|
19 |
詩と生命感に就いて |
詩人と音楽の関係について* |
|
20 |
詩のやうな物語り |
旅行と散歩と* |
|
21 |
美しい詩とその評釋(釈) |
ノオトより |
|
22 |
詩を多く(讀み)書くこと |
抒情詩について |
|
23 |
叙情詩について |
散文詩について* |
|
24 |
詩人と郷土との関係について |
近代科学と詩と |
|
25 |
詩と音律との関係につ(就)いて |
戀(恋)および愛の詩 |
|
26 |
|
林の中にて* |
|
27 |
|
詩人と郷土との関係に就いて |
|
28 |
|
美しい詩とその評釋(釈) |
|
29 |
|
詩を多く讀み書くこと |
|
文藝創作講座 第一号
文藝春秋社刊
昭和3年12月20日発行
参考価格 2,000(全10巻揃い 30,000 ~ 40,000)
入手困難度 ★★★★ |
「詩文創作講座」の基となった文藝春秋社の「文藝創作講座」の創刊第1号です。奥附では、昭和3年12月20日発行となっています。
目次には「詩文創作講座」の1つとして、「詩とその作法(本文中は『詩とその作り方』)」が記載されています。
同様に「詩について」萩原朔太郎著が連載スタートしています。これも、後述の「詩文創作講座」に全編が掲載されています。
後日、全10巻を入手できたため、「文藝創作講座」に連載された犀星の貴重な「詩とその作り方」全編を掲載しています。 →
「詩とその作り方」。
|
|
|
|
文藝創作講座 第一号
表紙
|
文藝創作講座 第一号
目次
|
文藝創作講座で連載された「詩文創作講座」を1冊に纏めたもののようです。犀星以外にも「萩原朔太郎」等も書いています。奥附はありません。
詩文創作講座
出版社不詳 → 文藝春秋社刊と思われます。
出版日等不詳
参考価格 10,000
入手困難度 ★★★★★ |
中扉は、「詩とその作法」となっていますが、本文の表題は「詩とその作り方」となっています。全文を掲載しています。 → 「詩とその作り方」
|
|
|
|
詩文創作講座(表紙)
どうも表紙の表題は墨で書かれたもののようです。
|
詩文創作講座(中扉)
|
内容としては、以下の作品が収録されています。
「詩とその作法」(本文では、「詩とその作り方」) 室生犀星著
「詩について」萩原朔太郎著
「作詩講義」川路柳虹著
「短歌論叢」齋藤茂吉著
詩の心 - 新しい詩と其の作り方抄 -
出版社 不詳
発行日 不詳
参考価格 10,000
入手困難度 ★★★★★ |
先日、ヤフオクで落札しました。タイトルに「新しい詩と其の作り方抄」とあるように「新らしい詩とその作り方」の抜粋のようです。確認したところ改訂版をベースに抜粋、一部改変した内容となっていました。印刷はガリ版印刷で、装幀は和装綴り本となっており、これまで存在すら知られていなかった非常に珍しいものです。
残念ながら、奥附がなく、詳細は不明です。
実際の構成は以下のようになっています。
|
「作詩入門」成光館蔵版(昭和11年9月11日第三版発行)
「新らしい詩とその作り方」と内容は異なりますが、詩作について書かれたものです。
犀星以外にも北原白秋、萩原朔太郎、高村光太郎など、そうそうたる詩人が書いています。
犀星は詩話十講の中で「詩作に就いて」とのタイトルで、犀星の写真とともに5頁掲載されています。
この本以外には、単行本などにも収録されていないようです。 |
←前ページ 次ページ→
|
|
|