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室生犀星の異装本 |
先日「信濃山中」の異装本を手に入れました。異装本とは、なんらかの理由で通常の装幀と異なる意匠の装幀が施された本で、犀星の著書にもいくつか見ることができます。
異装本には分類するといくつかの種類があるようです。
最も一般的な異装本としては、以下の「信濃山中」や「旅びと」などのように著者が意図して複数の異装を企画したものがあります。また、装幀ではありませんが、「文藝林泉」のように巻頭の序の句が異なる複数のものが存在するといったマニアックなものもあります。
変わったところでは、印刷の段階で、本の方が多く印刷され、函が足らなくなったため、汎用的な函に入れたもの、カバーを急遽作成してカバー装にしたものなどがあるようです。
左が標準の装幀のもので、右が今回ヤフオクで入手した異装、特製本です。
表紙には挿絵も入りオリジナル初版に比べて良い印象となっています。
奥附は、通常版と基本的に同じですが、売価(定価)のところに「定価 金参拾圓(30円)」との紙が貼られていました。通常版は八圓(8円)、あるいは同様に紙で壱弐圓(12円)に訂正されたものがありますが、比較すると3倍以上の価格ということになります。先日、異装本の2冊目を入手しました。ある程度の数が出版されているようです。その後、更に3冊目を入手しました。
左が標準のパープル調のカバーで、右が共色の異装本カバーです。本自身にも色、紙に違いがあります。
先日、「室生犀星記念館」を訪問した際に、パープル調の「旅びと」が展示されていました。
その後、ヤフオクで再度パープル調の「旅びと」が出品されており、落札しました。当初、共色版を入手していたため、こちらを標準本としていましたが、実際にはパープル調のものが多く出回っており、こちらが標準本ということが判りました。
共色版は非常に珍しく、先日ようやく2冊目を入手することができました。(2024年8月30日)
「室生犀星書目集成(室生朝子、星野晃一編)」には、「初版本に、薄紫表紙のほかに、若干の濃茶表紙の本がある。」との記載があり、以前より異装本の存在が判っていましたが、今回、標準本と異装本の両方を確認することができました。
今回入手したのは、本が「薄紫表紙」で、298番本。これまで所有していたものは、「濃茶表紙」のもので、378番本。
そうすると考えられるのが、1~300番本が、「薄紫表紙」のもので、301~500番本が、「濃茶表紙」と考えるのが自然です。「室生犀星書目集成」の「若干」と矛盾しますが、少なからず「濃茶表紙」本が存在しているようです。先日もヤフオクに出品されていた「犀星発句集」(函欠)も「濃茶表紙」でした。
また、それぞれ函も「薄茶」と「濃茶」との違いがあります。
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標準本函(濃茶)、本(薄紫表紙) |
異装本函(薄茶)、本(濃茶表紙)
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一般的な異装本ではありませんが、この文藝林泉には序歌が異なる2種類の異本が存在します。
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文藝林泉(初版)
序の句(Ⅰ) |
文藝林泉(初版)
序の句(Ⅱ)
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勘吉記の異装本(函)です。右の函の表の題字、著者名は本の扉のものを利用しています。また、背は本の題字、著者名を利用しているようです。印刷所で函が足らなくなり、汎用的な函に本の扉、背の版下を利用して造ったものだと思われます。貴重な1冊です。
「戦へる女」の異装本です。本来紙装薄表紙、角背であるものが、先日入手した三刷のものは紙装厚表紙、丸背となっており、所謂(いわゆる)上製本のような装幀となっています。同じ三刷のものでも、初版と同じ装幀のものもあり、どうしてこのような装幀のものが出版されたのかは不明です。
奥附を見ても違いが無く、一般的に上製本が高価であるのに対し、同じ定価となっています。
左が通常本、右が上製本(異装本)です。(それぞれ三刷)
廉価版(再版)の異装本です。先日ヤフオクで落札し、入手しました。当初は、個人的に作られたものなのか、出版されたものか、判断がつきませんでしたが、先日同じ装幀の二冊目を入手しました。
これで異装本ということが判明しました。どうしてこのような異装本が作られたかは不明です。
ヤフオクで、函の意匠が異なる異装本を見つけて入手しました。通常本と異なる重厚な印象となっています。
どのような理由で作られたのか、どのような方法で販売されたのかは不明ですが、この本の出版社である「第一書房」が昭和4年11月25日に出版した「室生犀星詩集」でも同様の意匠の異装本を確認しています。これまで確認できたのはそれぞれ1~2冊との状況で、市場にはほとんど存在していないようです。
通常版が函附きであるのに対して、カバー装となっています。
カバーの表紙の意匠は中表紙のものが利用されています。カバーの背は函の背の意匠と違っており、専用にデザインしたものと思われます。奥附けは通常版とまったく同じです。
函が不足したため、急遽カバーを作成して対応したのではないかと思われます。全体からすると非常に少数のみしか存在しないように思われます。
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