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愛の詩集

言わずと知れた「室生犀星」の処女詩集です。初版は自費出版の限定550部で感情詩社から出版されました。
装幀や表紙のネルリの像(F・ドストエフスキー)の絵は、恩地孝四郎の手によるものです。
復刻版も出されており、初版の雰囲気を手軽に手にすることができます。
感情詩社刊のオリジナルと復刻版の見分け方については、「愛の詩集の真贋」頁を作成していますので、参考にしてください。先日もヤフオクで函欠が出品されていました。2万円程度での落札ということで、比較的安価に入手できるようになりました。

愛の詩集(初版)
感情詩社刊 限定550部 自費出版 
大正7年1月1日発行 四六判 函、アンカット
装幀 恩地孝四郎
国立国会図書館デジタルコレクション http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/913535
青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/cards/001579/card53947.html
参考価格 150,000 ~ *400,000(函欠 50,000 ~ 80,000)
入手困難度 ★★★★
このHPを見ていただいた方から、通常版以外に特装版の存在についてメールをいただきました。ご連絡ありがとうございます。「第二愛の詩集」にも同様に存在するとのことです。
先日ヤフオクに「室生犀星詩集」の特装版が一瞬出品されていました。荻原朔太郎宛ての献呈署名本で、さすがに開始価格が3,000,000円と付いていましたが、一瞬で消えてしまったところから早々に買い手がついたようです。
そこには、これまでの40年間の中で2冊との記載がありました。また、外装(函のことだと思われます。)は存在しないようです。
冬至書房刊の「復原版」の附録である「『愛の詩集』初版のこと」にも特製版の書影が紹介されています。
感情詩社刊「愛の詩集」
(初版)函 *1
感情詩社刊「愛の詩集」
(初版)本
非常に状態が良いもので、
背表紙の金箔押しも鮮明です
感情詩社刊「愛の詩集」
(初版)奥附


感情詩社刊「愛の詩集」(初版)奥附
定価1円80銭との価格訂正紙貼り
感情詩社刊「愛の詩集」(初版)函背、本背

この「愛の詩集」について「室生犀星全詩集」(昭和三十七年三月十日 筑摩書房刊)の巻末の「解説」で犀星自身が、以下のように記しています。
「自費出版した処女詩集である。これを編集するまでにどれだけの詩を埋没したか、その数は相当の多きに亘つてゐる。感激の世界が若さをつらぬいてゐて、それが向ふ側に出られない悶えのやうなものが早くも詩の中では、どうにも現はれきれない有様を見せてゐる。それらを知ることのない悶えは詩の中にあるかぎり解決出来ないものであり、また、これは解決しなくともよい傷みでもあつた。詩中にあるものはその中にゐてのみ常に安定するものだ。何物もあたらしく眼に映つて来て、見てゐて気のつかないものを改めて見直した若い季節であつて、この裏側に抒情詩がすでに渦巻いてゐて私はそれに殆んど生涯をかけて打ち込んだ。
私の尤も間違はなかつたことは詩は抒情詩のほかには、一さい手をつけなかつたことであらう。私が何等
かの思想といふ至難なものに脅やかされなかつたことは、何時も何物かの思想を発見出来ない倖せを持ち
合せてゐたからであらう。」

雑誌「感情」に掲載された「愛の詩集」の広告です。毎号内容が変わっており、その変遷には非常に興味深いものがあります。
「感情」14号裏表紙掲載
第二巻第九号 大正6年10月
「感情」15号裏表紙掲載
第二巻第10号 大正6年11月
「感情」16号裏表紙掲載
第三巻第一号 大正7年1月


愛の詩集(再版/第二版)
聚英閣版
大正9年8月15日発行 四六判 函
装幀 恩地孝四郎
国立国会図書館デジタルコレクション http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/962993
参考価格 40,000 ~ 60,000(函欠 5,000 ~ 10,000)
入手困難度 ★★★
「愛の詩集」再版についての犀星の序が新たに加えられています。
それ以外では、「詩」には手はいれられていないものの、気付きにくいですが以下の3箇所の挿絵が差し替えられていたり削除されたりしていますます。
 1.萩原朔太郎の「孝子實傳」頁の挿絵が削除
 2.哥林多前書四ノ二十の挿絵が抽象画から手に変更
 3.「幸福を求めて」の章の頁の挿絵が風景の版画から手のひらの意匠に変更
その他、3.を含む全ての章の頁の表題が赤から単色(黒)に変更されています。
装幀は、初版と同様に恩地孝四郎の手によるものです。
函欠は市場でも比較的多く流通しており3,000円程度から入手可能です。
但し、函付きは貴重で、インターネット上でも過去に2~3冊程度は出されていますが非常に高価です。
先日、ヤフオクで落札しました。やはり知っている人も多くそれなりの価格での落札となりました。
愛の詩集(再版)函 *1
愛の詩集(再版)本
愛の詩集(再版)奥附

定価改正「二円四十銭」との価格訂正紙が貼られた奥附です。
「室生犀星書目集成」(室生朝子、星野晃一編)には、その他に「ゴム印にて特価金一円六十銭の価格のものがある」との記載があります。
そのためこの再版は長期間市場に流通していたことがわかります。

詩集「寂しき都会」巻末に掲載された「愛の詩集(再版)」の広告

この広告では、大正8年5月5日に「第二愛の詩集」が出版されたため、「第一愛の詩集」としています。
ここでは、「久しく絶版になり読者の期待を受けし著者の最も自信と愛執ある第一愛の詩集は漸く新装をこらして再び詩壇の一角に蘇る」と紹介されています。
また、出版にあたり犀星の言葉を以下のように紹介しています。
著者は本書に述べて曰。
「第一愛の詩集は、私がかつて詩人として立たうとした最も苦しみ悩みし頃の十年間の苦心の労作を全部集めたので、詩集としては最も、自信あり忘れがたき愛執の籠つたものだ。私は今でも此の詩集のことを思い出すと涙がこぼれる。
私は十年間詩よりも外何ものも願わなかった、せめては一巻の詩集だけでも、出して置かねば死んでも死に切れないと思つた、それ故に私は私の詩を永久に葬り去るつらさに、今までの労作を一巻に纏めて、私の詩を愛して下さる人々に贈らんとて、自費で出版したのだけれども部数が、わずかの為に、多くの人々に贈ることが出来なかったのを心残りであったが今再此の詩集の広く世にでることを心からうれしく思ふ。」


愛の詩集(第三版定本)
聚英閣版
昭和3年1月10日発行 四六判 函
装幀 著者
参考価格 20,000 ~ 50,000(函欠 3,000 ~ 5,000)*5,250(並)
入手困難度 ★★
「愛の詩集」再販についてと第三版の序が加えられています。内容について一部改訂が行われています。
 一般的に、「定本」とは複数の出版された本に異同を照合し十分に校正して、最終的な決定版、最終版として定めた本の意味で、犀星は出版の度に頻繁に作品に手を加えていますが、第三版を「定本 愛の詩集」としたことで、校訂に一度区切りをつけたことを意思表示したものと考えられます。
 この第三版は、函付で市場に多く流通しており、入手も容易です。
赤と黒のクロス装が特徴で、非常に趣の感じられる装幀です。個人的には、再版の大人しい装幀よりこの第三版の方が好みです。この装幀は、室生犀星の手によるものです。
愛の詩集(第三版)函 *1
愛の詩集(第三版)本
愛の詩集(第三版)奥附
この第三版出版にあたり、以下の序が追加されています。
第三版の序
 第二版は大正九年に此の聚英閣から出版され、その間に大地震の襲来があり、ソヴィェツト露西亜は遂に革命十年の紀念祭を迎えた。そして第二版から八年目に三版が今漸く上梓されるのである。書物といふものは永い間何かに埋れてゐては不意に顕れるものらしい。自分の本来のものは今も「愛の詩集」の延長となり特質となり、或る巌(いはほ)となりその地盤を自分の魂の内外に固めてゐる。
 
本詩集再刊について意味を為さないところの或二三行乃至或五六字はこれを削除した。芥川君の詩を巻頭に掲げたのは同君が大正九年に自分に初めて書いた詩だと云ひ、自分に手交して見せたもので誠に同君の最初の詩作であるらしかった。同君の全集へも自分は掲載を承諾し、自分として此詩を本詩集に掲げることは何か喜ばしい気持である。同時に同君の詩としては徒らに自分の文庫の中に秘められたものであり、その儘自分ひとりが秘蔵するに罪あることを感じ、詩を愛した絶後の友のためにこの書物を墓下に捧げたいと思ふものである。
昭和二年十一月十九日 犀星記

下の表は「愛の詩集」の初版、再版、第三版でそれぞれ収録されている詩の一覧表です。表を見ても直ぐにわかりますが再版は初版と同じ構成となっており、第三版で手を入れています。収録の順番と題名を一部変更しています。また、詩の一部に手が加えられています。その旨が「第三版の序」にも書かれています。
本詩集再刊について意味を為さないところの或二三行乃至或五六字はこれを削除した。」

愛の詩集(新版)
春陽堂刊 春陽堂文庫123
昭和10年3月20日発行 文庫判 
参考価格 2,000 ~ 3,000
入手困難度 ★★★
本書が初めて「愛の詩集」と「第二愛の詩集」を合巻し、二巻を纏めて刊行した旨の犀星の序が巻頭に記載されています。

愛の詩集(新版)本 *1
愛の詩集(新版)裏表紙
愛の詩集(新版)奥附


愛の詩集(文庫版)
角川書房刊
昭和36年8月10日発行 文庫判 帯
参考価格 1,000 ~ 2,000
入手困難度 ★★★
「角川書房より出版された「愛の詩集」の文庫版です。
愛の詩集(文庫版)本
愛の詩集(文庫版)裏表紙
愛の詩集(文庫版)奥附

定本愛の詩集
豊島書房刊
昭和41年10月15日発行 四六判変形 函、外函 
参考価格 2,000 ~ 3,000
入手困難度 ★
初版を底本とし、畦地梅太郎氏の題字、挿絵、装幀で編集されたものです。常に市場には数多く流れています。
定本愛の詩集
(豊島書房版)函
定本愛の詩集
(豊島書房版)本
定本愛の詩集
(豊島書房版)外函
定本愛の詩集
(豊島書房版)
奥附

定本愛の詩集 限定72部本
豊島書房刊
昭和41年10月15日発行 四六判変形 総皮貼装幀、タトウ函、外函 
参考価格 20,000 ~ 25,000
入手困難度 ★★
「定本愛の詩集」の限定72部本です。挿絵は畦地梅太郎氏の手摺版画で、総皮装の豪華本です。
奥附には、限定72部の記載があり、本書はその第 部との記載はありますが、不思議なことに実際の限定番号の記載は省略されており空欄となっています。
書影は、Yahoo!オークションで外函欠けを500円で落札したものです。やっぱりオークションは狙い目?。
定本愛の詩集
(豊島書房版)函
定本愛の詩集
(豊島書房版)本
定本愛の詩集
(豊島書房版)奥附

2冊目となる外函附きのものをインターネットで購入しました。今回の奥附けには「四」との手書きの記載がありました。
そのことから最初に入手したものは、番外本ということが判りました。
この72部限定本には畦地梅太郎氏の手摺版画が5枚含まれていることから比較的高価に販売されているようです。

定本愛の詩集(豊島書房版)外函
定本愛の詩集(豊島書房版)奥附 四番本

愛の詩集(愛蔵版)
日本図書センター刊
平成11年12月15日発行 四六判 カバー、函、帯
販売価格 2,500
入手困難度 現在も入手可能
初版の雰囲気を持った装幀で、愛蔵版シリーズの1冊として近年出版されました。
愛の詩集(愛蔵版)函、帯
愛の詩集(愛蔵版)
本、カバー
愛の詩集(愛蔵版)奥附



愛の詩集(復原版) 限定1,000部
大和書房(冬至書房)刊
昭和41年2月1日発行 四六判 函、外函
参考価格 1,000 ~ 2,000
入手困難度 ★★
この復原版には、復刻や復原といった記載がないため注意が必要です。奥附は、外函の内側に貼られており、限定番号の記載があります。 感情詩社刊のオリジナルと復刻版の見分け方については、「愛の詩集の真贋」頁を作成していますので参考にしてください。
先日もヤフオクでオリジナルとして出品されていましたが、入手してみると実際はこの復原版でした。既に発行から50年近くたっており、それなりに日焼け等の傷みがあり素人では見分けるのが難しくなってきています。
紙質などの質感も良く、初版の当時の雰囲気を手軽に味わえます。限定1,000部で発行されていますが、比較的入手は容易です。また、別冊付録として「『愛の詩集』初版のこと」 中野重治著が附いています。
愛の詩集(復原版)函
愛の詩集(復原版)本函
愛の詩集(復原版)外函

愛の詩集(復刻版) 名著復刻 詩集文学館
ほるぷ出版刊
昭和56年12月1日初刷発行 四六判 函、外函
参考価格 1,000 ~ 2,000
入手困難度 ★
愛の詩集(復刻版)の遊紙に復刻版の奥附が印刷されています。
また、函裏面下には「名著復刻 詩歌文学館」が印刷されており識別は容易です。
その他に保護のための簡単な外函が付いています。ほるぷ出版発行ということで出版された冊数は多いようです。
愛の詩集(復刻版)函
愛の詩集(復刻版)本
愛の詩集(復刻版)奥附

「雨の詩」について
「愛の詩集」に収録された詩「雨の詩」の変遷を見てみました。出版の順番としては、以下ように自費出版(感情詩社刊)の「愛の詩集」初版、「日本詩集」、そして「室生犀星全詩集」となります。

「愛の詩集」(感情詩社刊初版)大正7年1月1日発行
「雨の詩」
雨は愛のやうなものだ
それがひもすがら降り注いでゐた
人はこの雨を悲しさうに
すこしばかりの青もの畑を
次第に濡らしてゆくのを眺めてゐた
雨はいつもありのままの姿と
あれらの寂しい降りやうを
そのまま人の心にうつしてゐた
人人の優秀なたましひ等は
悲しさうに少しつかれて
いつまでも永い間うち沈んでゐた
永い間雨をしみじみと眺めてゐた
「日本詩集(1919年版)」大正15年12月28日発行
「雨の詩」
雨は愛のやうなものだ
それがひもすがら降り注いでゐた
人はこの雨を悲しさうに
すこしばかりの青もの畑を
次第に濡らしてゆくのを眺めてゐた
雨はいつもありのままの姿と
あれらの寂しい降りやうを
そのまま人の心にうつしてゐた
人人の優秀なたましひ

悲しさうに
すこしつかれて
いつまでも永い間うち沈んでゐた
永い間しみじみと
雨を眺めてゐた
「室生犀星全詩集」昭和37年3月10日発行
「雨の詩」
雨は愛のやうなものだ
それがひもすがら降り注いでゐた
人はこの雨を悲しさうに
すこしばかりの青もの畑を
次第に濡らしてゆくのを眺めてゐた
雨はいつもありのままの姿と
あれらの寂しい降りやうを
そのまま人の心にうつしてゐた
人人
は悲しさうに少しつかれて
いつまでも永い間うち沈んでゐた

永い間雨をしみじみと眺めてゐた


                 
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