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「動物詩集」の謎

 動物詩集は、ほとんどがこの日本絵雑誌社の「動物詩集」のために書き下ろしたもので、春・夏・秋・冬の四季毎にそれぞれ15、27、11、19篇の詩が掲載されています。
装幀および挿絵は恩地孝四郎氏によるもので、各頁は四季に応じた当時としては珍しいカラー単色印刷で、頁毎に詩に応じた動物の挿絵が描かれています。

 この「動物詩集」で謎なのが、発行部数です。奥附には発行部数60,000部との記載がありますが、室生朝子・星野晃一編の「室生犀星書目集成」では、「六千部の誤植と思われる。」p.162との記載があります。
例えば同時期に出版された「山の動物」は初版15,000部、「鮎吉・船吉・春吉」においても複数の版で10,000部以上発行されています。それと比較しても逆に6,000部は非常に少なく感じます。
 確かに、市場に流通している冊数は少ないようですが、ヤフオクへの出品は前述の2冊と比較してもかなり多いように感じます。
 私自身もこれまで3冊入手しており、全てヤフオクです。(その後、インターネット古書店から2冊を購入)
しかも比較的安価に入手できていることから広く市場に存在するものの、児童向けの詩集、絵本であるため価値があるとは思われにくく、市場に出て来にくいのではないかと考え ます。
また、本、カバーに異種が複数存在することから、何回かに分けて印刷されて、市場に出されているようです。
 やはり60,000部発行されているのではないかと思われます。
「動物詩集」初版 昭和18年9月5日発行の奥附部分

動物詩集(初版)奥附
動物詩集(初版)奥附の拡大
(六.○○○○部)との表記があります。

新発見!異装本?
先日、日本絵雑誌社から昭和18年9月5日に出版された「動物詩集」(カバー欠け、背痛みあり)をヤフオクで2,700円で落札しました。
これで4冊目となりましたが、この1冊のみ違いがあることに気づきました。裏表紙の「出文協承認番号」の有無です。この4冊目にのみ、「出文協承認あ430130」の記載がありました。
 ちなみに「ほるぷ出版」の復刻版にも同様にこの「出文協承認番号」の記載がありました。奥附を確認してみましたが、それ以外に違いはありませんでした。記載忘れが見つかり、印刷途中から加えたようです。そのため記載の有無の2種類が存在することになったようです。また、同様ににカバーにもこの有無の2種類が存在します。詳細は後日アップします。

動物詩集(初版)本体裏面
出文協承認番号なし
動物詩集(初版)本体裏面
出文協承認番号あり

その後、新たに入手したものも合わせ5冊の蔵書を確認したところ、以下のようなことが判明しました。
(2016年12月29日)
子供向けの詩集「動物詩集」には複数の種類が存在
日本絵雑誌社から昭和18年9月5日に出版された「動物詩集」の初版には現時点で3種類の本とカバーの組み合わせを確認しています。その内容、想定される経緯から、初期、中期、後期としています。
残念ながら、以下に記載したように新発見ではないようですが、整理したということでは初の試みだと思われます。

左の写真は、「動物詩集」初版の本の裏表紙ですこの右下部のところの「日本絵雑誌社発行」付近の記載に違いがあります。
これに関して見つけました↓↓↓↓↓↓↓↓
「名著復刻 日本児童文学 第二集 解説」(ほるぷ出版刊)の「復刻制作について」(編集部)の「動物詩集」の解説の中(p.346)で、「滑川道夫、鳥越信氏所蔵初版本を底本とし、室生家所蔵本、光吉夏弥氏、日本近代文学館、三康図書館所蔵初版本を見た。(中略)
 各本でカバー、表紙の定価、承認番号の刷位置に異同があるが、本復刻では滑川道夫氏所蔵本により復刻した。」との記載があり、まさにここで指摘している複数の種類が存在することに言及されています。
 
残念なのは、初期オリジナルではないもので復刻版が作られてしまったことですね。

【初期】
左側の本には、何も記載がありません。右側のカバーには、「日本絵雑誌社発行」の上に「(停)定価\2.00」の記載があります。現在、カバー附きを3冊所有していますが、内2冊はこれに該当します。
(写真左 本、同右 カバー)


【中期】左側の本には、【初期】と同様に何も記載がありません。右側のカバーには、「日本絵雑誌社発行」の上に「出文協承認あ430130」の記載があり、カバーの左下に「(停)定価\2.00」が移動しています。
これは、本、およびカバーに「出文協承認番号」の記載漏れが見つかり、まずカバーにはそれを記載したというようなことだと推測されます。
 また、場合によっては初期の本に後期のカバーがなんらかの理由で附けられた可能性もあります。私自身も複数を所有していますが、気を付けて取り扱わないとその可能性がありますし、場合によっては在庫となった本のカバーが全て付け替えられた可能性もあります。
(写真左 本、同右 カバー)


【後期】以前、後期版について次のように記載させていただきました。
「左側の本にも【中期】のカバーと同様に「日本絵雑誌社発行」の上に「出文協承認あ430130」の記載があります。この一冊はカバー無しで入手したため、推測ですがカバーにも「日本絵雑誌社発行」の上に「出文協承認あ430130」の記載があったものと思われます。その根拠として、次に紹介する復刻版(名著復刻 日本児童文学館 第二集 ほるぷ出版刊 昭和49年10月発行)には、本、カバーともに「日本絵雑誌社発行」の上に「出文協承認あ430130」の記載があります。」と。
 ついに見つけました、以下の写真のように本、カバーともに「日本絵雑誌社発行」の上に「出文協承認あ430130」の記載があるものを。(2018年10月7日)
(写真左 本、同右 カバー)


【復刻版】
(名著復刻 日本児童文学館 第二集 ほるぷ出版刊 昭和49年10月発行)には、本、カバーともに「日本絵雑誌社発行」の上に「出文協承認あ430130」の記載があります。
(写真左 本、同右 カバー)


このことから見ても、一回で印刷されたものではなく、複数回に分けて印刷されたようです。そのことから考えても、やはりこの「動物詩集」は、奥附に発行部数60,000部とあるように相当数が出版されているようです。
室生朝子・星野晃一編の「室生犀星書目集成」では、「六千部の誤植と思われる。」p.162との記載がありますが、例えば同時期に出版された「山の動物」は初版15,000部、「鮎吉・船吉・春吉」においても複数の版に分けて10,000部以上発行されています。それと比較しても逆に6,000部は非常に少なく感じます。
 やはり、奥附に記載されているように60,000部を複数回に分けて印刷、出版されたのではないかと思われます。
そのため、記載漏れの対応の有無で複数の組み合わせが存在するものと思われます。


この「動物詩集」のオリジナルはさすがに簡単には手にいれることはできませんが、ほるぷ出版から名著復刻 日本児童文学館  第二集 32として出版された復刻版は比較的容易に安価に手に入れることができます。復刻版だけに奥附の印紙が印刷で、奥附やカバーに復刻版の記載がある他は、装幀のみならず手触りなど初版のそのものです。
また、平成18年4月25日に日本図書センターより「わくわく!名作童話館⑧」として装いも新たに出版された新版は、表紙の デザインが初版本の表と裏の意匠を組み合わせたものとなっていますが、初版本に近い雰囲気を持っており、現時点で最も入手 し易い「動物詩集」です。
「動物詩集」初版の表紙(表・裏)と再版(日本図書センター刊)の表紙

動物詩集(初版)本裏表紙
動物詩集(初版)本表紙
動物詩集(再版)カバー
初版の裏表紙の上部と表紙の下部の意匠の組み合わせ


「動物詩集」(全部または一部抜粋)が掲載されているその他の本

動物のうた(初版)カバー
大日本図書社刊
日本児童文学体系9
ほるぷ出版刊
少年少女文学全集6(初版)
講談社刊

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