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詩集「星より来たれる者」の前後 |
詩集「星より来たれる者」に収録されている3つの詩の変化についてその前後に出版された著書から比較してみました。犀星は、自分の詩に手を入れることが多い詩人として知られていますが、その例として紹介したいと思います。
比較対象としたのは、以下の3冊で、詩は大正10年2月17日発行の「現代詩人選集 詩話会編」に収録されている「藁」、「冬」、「どうどう廻り」の3つの詩です。
・「現代詩人選集 詩話会編」新潮社刊 大正10年2月17日発行
・「星より来たれる者」(初版)大鎧閣刊 大正11年2月20日発行
・「室生犀星全詩集」筑摩書房刊 昭和37年3月10日発行
藁 詩集「星より来たれる者」の「我庭の景」巻頭の詩 |
「現代詩人選集 詩話会編」新潮社刊 大正10年2月17日発行 |
藁
藁のなかから
朱い花が撥き出てゐる
藁は乾いてきいろく柔らかい
そして温かい
花と藁と蕾とが
冬の日に向いてゐる
土は凍えてゐる
撥きでた花はかつと朱い
楽しい色をしてゐる |
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「室生犀星書目集成」(室生朝子、星野晃一編)で「星より来たれる者」を確認してみたところ「冬」のみが初出「人間(大正10年3月1日号)」となっているものの「藁」、「どうどう廻り」の2つの詩は、初出「不詳」となっており、この「現代詩人選集 詩話会編」のために書き下ろされた詩の可能性もあります。
「星より来たれる者」(初版)大鎧閣刊 大正11年2月20日発行 |
藁
藁のなかから
朱い花が撥き出てゐる
藁は乾いてきいろく柔らかい
そして温かい
花と藁と蕾とが
冬の日に向いてゐる
土は凍えてゐる
撥きでた花はかつと朱い
楽しい色をしてゐる |
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「星より来たれる者」の「我庭の景」巻頭に掲載されています。「現代詩人選集 詩話会編」との違いはありません。
「室生犀星全詩集」筑摩書房刊 昭和37年3月10日発行 |
藁
藁のなかから
朱い花が撥き出てゐる
藁は乾いてきいろく柔らかい
そして温かい
花と藁と蕾とが
冬の日に向いてゐる
土は凍えてゐる
撥きでた花はかつと朱い
楽しい色をしてゐる |
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この「室生犀星全詩集」では、最後の一行の「楽しい色をしている」が削除されています。
実は、この「藁」について「室生犀星詩集(鎌倉書房刊)」昭和22年11月25日発行では、大きな違いがあります。というよりあきらかに誤植と思われるものになっています。
冬 「現代詩人選集 詩話会編」のために書き下ろされた詩 |
「現代詩人選集 詩話会編」新潮社刊 大正10年2月17日発行 |
冬
屋根も篠竹も
霜のおもみで垂れて動かなかった
冬の
砥のやうな月がその上に出てゐた
みな凍えあがつて
風は全くなかった何も動かなかつた |
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「星より来たれる者」(初版)大鎧閣刊 大正11年2月20日発行 |
冬
屋根も篠竹も
霜のおもみで垂れて動かなかった
冬の
砥のやうな月がその上に出てゐた
みな凍え(あ)がつて
風は全くなかった_何も動かなかつた |
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この「星より来たれる者」では、最後の二行で違いが見られます。1つは脱字と思われるもので「あ」が抜けてしまっています。もう1つは読みやすくするために1字の空きを入れています。
「室生犀星全詩集」筑摩書房刊 昭和37年3月10日発行 |
冬
屋根も篠竹も
霜のおもみで垂れて動かなかった
冬の
砥のやうな月がその上に出てゐた
みな凍え上がつて
風は全くなかった_何も動かなかつた |
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この「室生犀星全詩集」では、「星より来たれる者」で脱字となっている部分が訂正されましたが、初出の「現代詩人選集 詩話会編」ではひらがなの「あ」がここでは「上」と漢字になっています。
底本を「星より来たれる者」(初版)大鎧閣刊 大正11年2月20日発行としており、脱字を訂正した際に、初出を意識せずに行ってしまったためだと思われます。
どうどう廻り 「現代詩人選集 詩話会編」のために書き下ろされた詩 |
「現代詩人選集 詩話会編」新潮社刊 大正10年2月17日発行 |
どうどう廻り
その女は何處の誰であつたかも忘れた
よい瞳つきで
扉にもたれてしげしげと見詰めてゐた
暗いところで花のやうに匂つてゐた
道はぬかつてねた
わたしはそこをやたらに歩いて
ぞの家をぐるぐる廻つてゐるうち
自分の家のまへへ出た
家では妻が縫物をしてゐた
その女は何處の誰であるかもしれない
よい手足ですらりとあるいてゐた
その女のことにあたまをとられて
ぼんやり歩いてゐるうち
坂があり木があり
子供があそんだりしてゐる道へでた
そこから自分の家の前へ出た
家では妻が縫物をしてゐた |
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「星より来たれる者」(初版)大鎧閣刊 大正11年2月20日発行 |
どうどう廻り
その女は何處の誰であつたかも忘れた
よい瞳つきで
扉にもたれてしげしげと見詰めてゐた
暗いところで花のやうに匂つてゐた
道はぬかつてねた
わたしはそこをやたらに歩いて
ぞの家をぐるぐる廻つてゐるうち
自分の家のまへへ出た
家では妻が縫ものをしてゐた
その女は何處の誰であるかもしれない
よい手足ですらりとあるいてゐた
その女のことにあたまをとられて
ぼんやり歩いてゐるうち
坂があり木があり
子供があそんだりしてゐる道へでた
そこから自分の家の前へ出た
家では妻が縫物をしてゐた |
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この「星より来たれる者」では、前半の最終行の「縫物」が「縫もの」と物がひらがなになっています。最初出版時の誤字とも思いましたが、「室生犀星全詩集」筑摩書房刊を見ると敢えて変えた可能性もあるように思えます。
「室生犀星全詩集」筑摩書房刊 昭和37年3月10日発行 |
どうどう廻り
その女は何処の誰であつたかも忘れた
よい瞳つきで
扉にもたれてしげしげと見詰めてゐた
暗いところでしきりに匂つてゐた
道はぬかつてねた
わたしはそこをやたらに歩いて
ぞの家をぐるぐる廻つてゐるうち
自分の家のまへへ出た
家では妻が縫ものをしてゐた
その女は何處の誰であるかもしれない
よい手足ですらりとあるいてゐた
その女のことにあたまをとられて
ぼんやり歩いてゐるうち
坂があり木があり
子供があそんだりしてゐる道へでた
そこから自分の家の前へ出た
家では妻が縫物をしてゐた |
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この「室生犀星全詩集」筑摩書房刊では、大胆にも後半を全て削除しています。また、一部変更しています。
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