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第二愛の詩集

その名の通り、「愛の詩集」の第二詩集として出版されたものです。
扉には、「僕の空の前にも 艶の良い若葉がそよぐ 風が渡るときらきら ・・・・して 美しさは・限りたる ・・・・・・心も・・・・・・ 胸も・安まるのだ」との詩が書かれています。

第二愛の詩集
文武堂書店刊
大正8年5月5日発行 四六判 函
装幀 恩地孝四郎
国立国会図書館デジタルコレクション http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/908025
参考価格 100,000 ~ 200,000(函欠 20,000)
入手困難度 ★★★★
やはり、装幀は恩地孝四郎の手によるものです。
函付きはなかなか市場に出ることはありませんが、函欠けであれば比較的市場で流通しています。函欠でも20,000円程度と比較的高価で、状態が良いものは少ないようです。
第二愛の詩集(初版)函
第二愛の詩集(初版)本体
第二愛の詩集(初版)
奥附

「第二愛の詩集」の扉に記載された詩の拡大です。

僕の空の前にも
艶の良い若葉がそよぐ
風が渡るとさらさら・・・・して
美しさは・限りなる
・・・・・・心も・・・・・・
胸も・安まるのだ
「第二愛の詩集」の中扉の拡大です。

「第二愛の詩集」の下に室生犀星詩集Ⅳ(4)との記載があります。
実際に創作された順に「抒情小曲集」、「愛の詩集」、「青き魚を釣る人」に次ぐ第四の詩集という意味だと思われます。

この「第二愛の詩集」について「室生犀星全詩集」(昭和三十七年三月十日 筑摩書房刊)の巻末の「解説」で犀星自身が、以下のように記しています。
「『第二愛の詩集』は『愛の詩集』に続くものであつて、ながれはその表現を一つの源に発してゐて、殆んど同時に作られたものである。ここでも躍起となり何かを捉へようとしてその構へだけで終つてゐる。なにかの思想らしいものを目標にしてゐることだけは解るが、その本体が解らないので、それの解るまで同じ形に打つかつてゐるやうである。まだ心臓部に行きとどかないでゐて目標に眼がくらんでゐる遺憾があつた。『愛の詩集』とともにそれがもはや七十二歳になつた私に、たわいない哀憐詩を思はせるくらゐである。いつそ文詩詩であればそのままにながれる青春であらうに、ここでは無益の悶えとか平和とか賞讃の狭小な世界にはまりこんでゐて、曖昧な大道主義とか平和観念に囚はれてゐる。」

雑誌「感情」に掲載された「第二愛の詩集」の広告です。左の広告には、「愛の詩集を出してからもう一年半になる。自分はこの間に思想的に陰欝な日の多くを送った。自分は何の為に書かなければならなかったか、自分は果して人々の優秀な魂に値せらろぺきものであろうかなどと云う悩み苦しみが、ついにこの詩集をなさしめた。この書物はさきの詩集とともに併せ読まれることを祈る。」と書かれています。
「感情」29号裏表紙掲載
第四巻第五号 大正8年5月
「感情」30号裏表紙掲載
第四巻第六号 大正8年7月

「第二愛の詩集」の巻末に掲載された幻の「詩について感想」
この「詩について感想」は実際には出版されず幻となったものです。犀星の時代には、告知のみで実際に出版されないことは珍しくなかったようです。
この広告の中では、以下のように紹介されています。
「この書物は著書の折折に発表せる誌についての感想や評論、あるひは散文詩等をあつめた詩のやうな温かみをもつて為された愛すべき書物である。ここに著者の自叙伝散文詩「抒情詩時代」「海の散文詩」「書斎で思ふこと」その他詩についての感想、批評などあつめたものである。」
また、詩集「寂しき都会」の巻頭でも「同じ著書によりて 感想集 新しき詩・詩について感想(未刊)」と紹介されています。

日本詩集(1919年版)
左の写影は、この「第二愛の詩集」に収録されている「初めて『アラマゾフ兄弟を讀んだ晩のこと」の初出誌の「日本詩集」1919年版です。
詳細は割愛しますが、この「第二愛の詩集」に収録する際に後半には相当手を入れています。
また、その他に「第二愛の詩集」掲載されている「散歩」(初出誌は「感情」)も収録されており、こちらにも手が入っています。



「初めて『カラマゾフ』を讀んだ晩のこと」の初出と「第二愛の詩集」との比較
「日本詩集」(1919年版)
私はふと心をすまして
その晩も椎の實が屋根の上に
時を置いて撥かれる音をきいた
まるで礫を遠くから打つたやうに
佗しく雨戸をも敲くのであつた

郊外の夜は靄が深く
しめりを帯びた庭の土の上に
かなり静かな重い音を立てて
うれた椎の實は
ぽつりぽつりと落ちて来た

それは誰でもあの實のおちる音を
かつて闘いたものが、お互ひに感じるやうに
まるで人間の微かな足音のやうに
温かい静かなしかも内気な歩みで
あたりを憚りながら
優しくしのんで来るやうであつた

私は書物を閉ぢ
雨戸を繰つで庭にひろがつた靄を眺めた
温かい晩の靄は一つの生きもののやうに
その濡れた地と梢とにかかつてゐた
私は彼の愛すべき孤獨な小さな音響が
實に寂然として
目の前の地上に触れるのをきいた

都会のはづれにある町の
しかも奥深い百姓家の離れの一室に
私は父を亡つて
遠く郷里から帰つて坐つてゐた
あたかも生涯のなかばに立つて
あとの生涯をゆだねつくす仕事のため
心を深く決めた深い晩であつた
「第二愛の詩集」
私はふと心をすまして
その晩も椎の實が屋根の上に
時を置いて撥かれる音をきいた
まるで礫を遠くから打つたやうに
佗しく雨戸をも
叩くことがあつた

郊外の夜は靄が深く
しめりを帯びた庭の土の上に
かなり
重い静かな音を立てて
椎の實は
ぽつりぽつりと落ちてきた
それは誰でも
彼の實のおちる音を
かつて闘いたものがお互ひに感じるやうに
まるで人間の微かな足音のやうに
温かい静かなしかも内気な歩みで
あたりに忍んで来るもののやうであつた

私は書物を閉ぢ

雨戸
を繰つで庭の靄を眺めた
温かい晩の靄は一つの生きもののやうに
その濡れた地と梢とにかかつてゐた
自分は彼の愛すべき孤獨な小さな音響が
實に
自然に、寂然として
目の前
に落ちるのをきいてゐた

都会のはづれにある町の
しかも奥深い百姓家の離れの一室に
私は父を亡つて
遠く郷里から帰つて
つてゐた
あたかも
自らがその生涯の央に立つて
しかも「苦しんだ藝術」に

あとの生涯をゆだね
つくさうと心に決めた
深い晩のことで
あつた



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